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大阪地方裁判所 昭和63年(行ウ)76号 判決

原告 萬代秀雄

右訴訟代理人弁護士 岩﨑昭德

被告 堺税務署長 宝官一磨

右指定代理人 白石研二

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し、昭和六三年三月八日付けでした、原告の昭和五五年分の総所得金額及びこれに対する税額を更正する旨の処分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実(明らかに争いがない事実も含む。)

1  本件更正の存在等

(一) 原告は、昭和五九年分の所得税につき、別表課税の経緯の確定申告欄及び修正申告欄記載のとおりに、確定申告及び修正申告をした。

(二) 被告は、昭和六三年三月八日付けで、同表更正欄記載のとおり、原告の昭和五九年分の総所得金額及びこれに対する税額を更正する旨の処分(以下「本件更正」という。)並びに過少申告加算税の賦課決定をした。

(三) 原告は、昭和五九年分の確定申告書を青色の申告書により提出することの承認を受け、青色申告書を提出して確定申告をしたにもかかわらず、被告は本件更正に係る通知書に、一時所得金額に係る更正の理由を附記しなかった。

2  土居川公園事業及び大阪府道大阪堺線環境施設帯整備事業のための補償金契約等の締結に伴う原告の収支

(一) 原告は、堺市が施行する都市計画土居川公園事業(阪神高速道路大阪堺線環境施設帯と相互に効用を兼ねる部分を含む。)のために、昭和五九年八月八日、堺市との間において、原告所有にかかる別表1記載の土地建物につき、同表記載のとおり土地売買契約、補償契約及び物件移転補償契約を締結し、同年中に、土地売買代金及び物件移転補償金等として、総額三億二五七七万四一二八円の支払を受けた(以下、右各契約を総称して「本件補償契約」といい、本件補償契約に基づき支払われた代金及び補償金を「本件補償金」、土地売買契約の対象となった土地を「本件土地」、物件移転契約の対象となった建物を「本件建物」という。)。

このうち、物件移転補償契約に基づき、移転雑費の名目で支払われた金員(以下「本件移転雑費」という。)は九七五万二七〇〇円であり、その内訳は、別表2記載のとおりである。

(二) 原告は、物件移転補償契約の約旨に従い、本件建物を取り壊し、予てから所有していた堺市東雲所在の農地につき宅地転用許可を受けたうえ、同土地上に代替資産となるべき賃貸用マンションしののめハイツを建築した。原告は、右しののめハイツの建築等、代替資産の取得のために、本件補償金総額を上回る総額三億二五八八万二三六〇円の金員を支出した。

(三) 原告は、本件建物を賃貸住宅として第三者に賃貸していたため、本件建物を取り壊す以前である昭和五九年一一月一〇日に、賃借人の一人である北島晴太郎に対し、立退見舞金の名目で五〇〇万円を支払った(以下「本件立退料」という。)。

二  総所得金額についての当事者の主張

1  被告

(一) 不動産所得

(1) 総収入金額 二二九七万四九六六円

(2) 必要経費 一〇二一万五二一一円

なお、原告が北島に対して支払った本件立退料五〇〇万円は、原告が堺市に対して本件土地を譲渡するために要した費用であって、不動産所得に係る必要経費には該当しない。

(3) 青色専従者給与 一九八万〇〇〇〇円

(4) 青色申告控除額 一〇万〇〇〇〇円

(5) 不動産所得金額 一〇六七万九七五五円

(二) 給与所得

(1) 総収入金額 九二七万六五八五円

(2) 給与所得控除額 二〇二万二六五九円

(3) 給与所得金額 七二五万三九二六円

(三) 一時所得

(1) 総収入金額 九七五万二七〇〇円

右の金額は、原告が、物件移転補償契約に基づき、堺市から支払を受けた本件移転雑費の金額である。本件移転雑費は、いわゆる経費補償の性質を有するものであって、租税特別措置法三三条三項二号に基づき本件建物の譲渡があったものとみなし、同条一項に基づく課税の特例の対象とされる補償金には該当しない。

(2) 必要経費 〇円

(3) 一時所得特別控除額 五〇万〇〇〇〇円

(4) 一時所得金額 九二五万二七〇〇円

(四) 総所得金額 二二五六万〇〇三一円

右不動産所得金額、給与所得金額に、一時所得金額の二分の一を加算した二二五六万〇〇三一円が、原告の昭和五九年分の総所得金額である。

2  原告の認否及び反論

(一) 不動産所得

不動産所得に係る総収入金額、青色専従者給与、青色申告控除額は認める。

不動産所得に係る必要経費として、被告主張の一〇二一万五二一一円に加え、原告が北島に対して支払った本件立退料五〇〇万円が算入されるべきである。

(二) 給与所得

給与所得に係る総収入金額及び給与所得控除額は認める。

(三) 一時所得

一時所得に係る総収入金額を否認する。

本件移転雑費は、移転先選定費等、名目的には本件建物の移築に伴う経費補償として支払われたものではある。しかし、物件移転補償契約締結当時、原告及び堺市は、原告が本件買収に伴い本件建物を取り壊して代替建物を建築することを、当然の前提としており、本件建物を移築することは、およそ予定していなかった。このような事情にかんがみれば、本件補償金は、実質的にはその全額が本件土地建物の譲渡の対価たる性質を有する。したがって、本件土地及び建物につき譲渡があったものとみなし、本件移転雑費を含む本件補償金の全額につき、租税特別措置法三三条一項に基づく課税の特例を認めるべきである。

本件移転雑費につき、租税特別措置法三三条一項に基づく課税の特例を認めず、その総収入金額算入の可否について所得税法四四条を適用することは、極めて不合理である。

三  争点

1  本件立退料が、不動産所得に係る必要経費に該当するか否か。

2  本件移転雑費が、一時所得に係る総収入金額に該当するか否か。

3  被告が、本件更正に係る通知書に、一時所得金額に係る更正の理由を附記しなかったことは、所得税法一五五条二項に違反するか否か。

第三判断

一  本件立退料について

《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

1  堺市は、都市計画土居川公園事業(大阪府道大阪堺線環境施設帯との相互に効用を兼ねる部分を含む。)の施行のために、原告との間において本件補償契約締結の交渉を進める一方で、北島晴太郎を含む、本件建物の賃借人らとの間でも立退交渉を重ねていた。

2  原告と堺市との間の土地売買及び物件移転補償契約によれば、原告は堺市に対して、本件建物を移転又は収去して本件土地を引き渡す義務を負担しており、右義務の履行完了後に、右各契約に基づく土地代金及び移転補償金の約半額が支払われることになっていた。

3  ところが、北島は、堺市との間で立退補償契約締結の前後を通じて、本件建物からの退去に難色を示し、他の賃借人がすべて本件建物から退去した後も、本件建物に居住を続けていた。そこで、原告は、堺市と北島との間の立退交渉と並行して、北島を円満に本件建物から退去させるために同人と交渉を重ね、北島が堺市から支払を受ける立退補償金のほかに、原告が五〇〇万円の立退料を支払うことで、本件建物から円満に退去することを納得させた。

4  その結果、北島は、昭和五九年八月八日、立退補償金四五八万五九〇〇円とする立退補償契約を締結し、同年一〇月二八日に本件建物を退去した。そこで、原告は、同年一一月一〇日、北島に本件立退料五〇〇万円を支払い、直ちに本件建物の収去を完了し、同月二〇日、本件土地を堺市に引き渡して、土地代金及び移転補償金の残額の支払を受けた。

以上の認定事実に《証拠省略》を総合すると、原告は、早期に北島の立退を実現したうえで本件建物を取壊し、その敷地である本件土地を更地にして引渡すことにより、その対価を取得するために、本件立退料を支払ったものと認められる。そうすると、本件立退料は、その性質上、本件土地を譲渡するために要した費用であると認められ、その金額は、譲渡所得に係る必要経費に算入すべきである。(なお、所得税基本通達三三―七(2)、三七―二三(乙三号証)参照。)

したがって、昭和五九年分の原告の不動産所得金額は、被告主張のとおり一〇六七万九七五五円であると認められる。

二  本件移転雑費について

1  本件移転雑費が本件補償金の一部であり、その内訳が別表2記載のとおりであることは、前記のとおり当事者間に争いがない。右事実及び《証拠省略》によれば、本件移転雑費は、建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準(昭和三八年三月二〇日建設省訓第五号)に従い補償されたものであって、本件建物の移転自体に要する費用以外に、移転先選定に要する費用、法令上の手続に要する費用等、建物の移転に伴い通常必要とされる費用やこれに伴う損失を補償する趣旨で支払われたものであると認められる。したがって、本件移転雑費は、本件土地又は本件建物の対価として支払われたものとは認めがたい。そして、本件移転雑費は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得及び山林所得に係る収入金額のいずれにも該当せず、しかも、一時の所得で労務その他の役務の対価としての性質を有しないものことが明らかであるから、その金額は、一時所得に係る総収入金額に算入すべきである。

2  この点につき、原告は、本件補償金は、実質的にはその全額が本件土地建物の譲渡の対価たる性質を有するから、本件土地及び建物につき譲渡があったものとみなし、本件移転雑費を含む本件補償金の全額につき、租税特別措置法三三条一項に基づく課税の特例を認めるべきであると主張するので、以下においては、この点について検討をする。

(一) 租税特別措置法三三条の規定

(1) 租税特別措置法三三条一項二号によれば、土地について買取りの申出を拒むときは土地収用法等の規定に基づいて収用されることになる場合において、当然土地が買い取られ(以下「買収」という。)、対価を取得するときは、右対価について、同項本文に定める課税の特例が認められる。

(2) 租税特別措置法三三条三項二号によれば、土地が同条一項二号の規定に該当することになったことに伴い、その土地上にある資産につき、取壊し若しくは除却しなければならなくなった場合において、これら資産の対価又はこれらの資産の損失に対する補償金で政令で定めるものを取得するときには、右補償金又は対価の金額をもって同条一項に基づく課税の特例の対象となる補償金又は対価とみなすこととされている。そして、同法施行令二二条一三項二号は、当該資産の損失につき土地収用法八八条により受けた補償金その他これに相当する補償金が、租税特別措置法三三条三項二号に規定するこれら資産の対価又はこれらの資産の損失に対する補償金で政令で定める補償金に当たる旨を規定する。

(3) 租税特別措置法三三条五項は、同条一項一号等に規定する補償金の額は、名義がいずれであるかを問わず、資産の収用等の対価たる金額をいうものとし、収用等に際して交付を受ける移転料その他資産の収用等の対価たる金額以外の金額を含まない旨を規定する。

(二) 建物の取壊しがされた場合における租税特別措置法三三条三項二号の類推適用

租税特別措置法三三条一、五項の規定をも対照しながら同条三項二号及び同法施行令二二条一三項二号の各規定を文言どおりに解釈するならば、租税特別措置法三三条三項二号は、土地等が買収されることに伴い、取壊し若しくは除却をしなければならなくなった土地上の資産について、その資産価値を補償する趣旨で支払われるいわゆる対価補償金が、同条一項に基づく課税の特例の対象となる旨を規定するものというべきである。

ところで、土地が買収されることになった場合、その土地上にある建物については、土地収用法七七条の趣旨に従いその移転のための費用が補償されるのが、わが国における補償の実務である。建物移転補償金は、取壊しをする建物の資産価値に対する補償として支払われるものではなく、当該建物の移転のための費用及び移転に伴って通常生じる損害を補償するために支払われるものであるため、租税特別措置法三三条三項二号の文言を形式的に解釈適用したならば、建物移転補償金は、同条一項に基づく課税の特例の対象となり得ないということになる。

しかし、建物移転補償金の交付を受けた者が、これを交付の目的に従って、建物の移築の費用に充てることは希有のことであり、通常は、建物移転補償金をもって当該建物を取壊して代替建物を取得するというのがわが国の実情である。右のような実情にかんがみると、この解釈に従うときは、多くの場合、建物移転補償金については、所得税法四四条に基づく総収入金額への不算入の取扱いも受けられず、また、租税特別措置法三三条三項二号、同条一項に基づく課税の特例の適用も受けられないことになる。この解釈は、所得税法四四条及び租税特別措置法三三条の趣旨に反する不合理なものといわざるを得ない。したがって、建物移転補償金の交付を受けたものが、当該建物を移築することなく、これを取り壊して代替建物を取得した場合には、建物移転補償金として交付された補償金であっても、建物自体の資産価値に相当する部分は、建物の対価又は建物自体の損失に対する補償金としての実質を有する対価補償金にあたるものと認め、租税特別措置法三三条三項二号を類推適用して、同条一項に基づく課税の特例の対象となる補償金に該当すると解するのが相当である(なお、租税特別措置法通達三三―一四参照。)。

(三) 本件移転雑費についての租税特別措置法三三条一項、三項二号の適用の可否

そこで、本件移転雑費が、租税特別措置法三三条一項に基づく課税の特例の対象となる補償金に該当するものと認め得るか否かについて検討を進める。

本件補償金の内訳は次のとおりである。

(1) 土地売買契約に基づく本件土地売買代金 二億二四七〇万三三六〇円

(2) 補償契約に基づく残地補償金 五八八万三九六八円

(3) 物件移転補償契約

ア 物件移転費 八四七〇万二六〇〇円

イ 家賃減収補償費 七三万一五〇〇円

ウ 本件移転雑費 九七五万二七〇〇円

右の契約内容に、《証拠省略》を総合するならば、右土地売買代金額は、大手業者三社の鑑定に基づき堺市鑑定評価委員会が決定した本件土地の適正価格であって、右金額が、本件土地の対価たる性質を有するものであることが明らかである。したがって、本件移転雑費が、租税特別措置法三三条一項二号所定の土地の買収の対価の一部に該当するとは認め難い。

また、物件移転契約に基づく移転補償金のうち、本件移転雑費を除く八五四三万四一〇〇円については、被告においても租税特別措置法三三条三項二号の類推適用により同条一項に基づく課税の特例の対象となる補償金に該当すると認定判断し、右金額に関しては、何らの更正もしていないことが、本件更正の内容及び弁論の全趣旨に照らして明らかである。そして、《証拠省略》を総合すると、一般に、建物移転費は当該建物の移築による再現に必要な費用を補償するものであって、本件においては、補償対象建物の推定再建築費に、その築後経過年数に応じた係数(〇・八五から〇・七)を乗じた金額をもってその移転費を算出する方法により、物件移転補償契約に基づく物件移転費が算出されていること、本件建物は、大正末期又は昭和五年ころに建築された老朽木造建物であったことが認められ、これらの事情に照らすならば、物件移転補償契約に基づいて支払われた補償金のうち、本件建物の資産価値に相当する部分の額が、被告においても租税特別措置法三三条三項二号の類推適用を認めている八五四三万四一〇〇円を超えるものとは到底認められない。

以上のように、本件移転雑費は、租税特別措置法三三条一項二号所定の土地買収の対価と認め難いのみならず、本件建物の資産価値に対する補償の性質を有するものとして、同条三項二号を類推適用して、同条一項に基づく課税の特例を認めるべき補償金とみなすこともできない。

3  原告は、本件移転雑費について、租税特別措置法三三条一項に基づく課税の特例を認めず、その総収入への金額算入の可否について所得税法四四条を適用することが、不合理であるとも主張するので、この点について検討する。

本件移転雑費は、前記認定のように一時所得に係る総収入金額に該当するものであるが、これが、その交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てられた場合には、その費用に充てた金額は、各種所得の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分の金額に相当する金額を除き、その者の各種所得の金額の計算上総収入金額に算入しないこととされる(所得税法四四条)。本件移転雑費についても、これが交付の目的に従って資産の移転等に伴う費用に充てられた場合には、その支出金額のうち、各種所得の計算上必要経費に算入され又は譲渡に要した費用とされる部分を除き、各種所得の計算上総収入金額に算入しない取扱を受けられるのである。したがって、建物の移転等に伴い通常であれば必要とされる費用が補償されたにもかかわらず、原告の特別事情等により、当該費用の支出を要しなかった場合に限り、当該補償金の額は、課税所得金額を構成することになるにすぎず、本件移転雑費の総収入金額への算入の可否について所得税法四四条を適用することが、不合理であるとの原告の主張は、採用できない。

ちなみに、本件移転雑費の各項目につき、所得税法四四条を適用した結果、一時所得に係る総収入金額に算入することになることが不合理ではないことは、以下のとおりである。

(一) 代替土地の登記費用は、当該土地が不動産所得の起因となる土地に該当するならば、不動産所得の計算上必要経費の額に算入されるべき金額であり、また、それ以外であるならば、右登記費用につき、所得税法四四条に基づき総収入金額に算入しない取扱を選択することが可能である。しかし、原告は、昭和五九年中に支出した代替土地の登記費用二〇万七〇五〇円につき、租税特別措置法三三条一項の適用上代替資産の取得に要した費用の額にあたるものとして、確定申告をしており、分離課税に係る長期譲渡所得(課税標準)及びこれに対する税額については、被告が更正を行わなかった結果、右確定申告に従ってこれが確定していることが、本件更正の内容に照らして明らかであるから、本件については、本件移転雑費のうち土地の登記費用を、一時所得に係る総収入金額に算入することは何ら不合理ではない。

(二) 代替建物であるしののめハイツ(賃貸用マンション)の建築確認申請費は、不動産所得の起因となる建物の取得費(所得税法施行令一二六条一項二号)として、所得税法四九条一項、同法施行令一二〇条ないし一二二条の規定に従った減価償却の方法により、不動産所得の計算上必要経費の額に算入すべき金額に該当する。したがって、本件移転雑費のうち建物建築確認申請費は、これが支出された場合には原告の不動産所得の計算上必要経費に算入されるのであるから、右金額を一時所得に係る総収入金額に算入することは何ら不合理ではない。

(三) 代替建物であるしののめハイツ(賃貸用マンション)の登記費用は、当該費用を支出した年分の不動産所得の計算上必要経費に算入されるべき金額に該当する。現に、原告は、昭和六一年分の不動産所得の計算上、しののめハイツの登記費用一五九万九〇〇〇円を必要経費に算入しているのである。したがって、本件移転雑費のうち建物登記費は、これが支出された場合には原告の不動産所得の計算上必要経費に算入されるのであるから、右金額を一時所得に係る総収入金額に算入することは何ら不合理ではない。

(四) 移転先選定費、移転雑費については、通常、建物の移転にはこれらの費用が必要であることを前提としてその補償がされた金額である。そして、これがその目的に従って支出がされれば、右金額は、所得税法四四条に基づき、一時所得に係る総収入金額に算入しないことになるものであるが、本件においては、右支出がされたことの主張立証がない。かえって、《証拠省略》によれば、原告は、予てから所有していた農地につき宅地転用許可を受けたうえ、同土地上に代替資産となるべき賃貸用マンションしののめハイツを建築したため、移転先選定のために費用を支出をする必要がなかったことがうかがわれるのであって、これらを一時所得に係る総収入金額に算入することは何ら不合理ではない。

(五) 本件移転雑費のうち就業不能補償費は、収益補償の性質を有する補償金であって、本来的に課税の対象となるべき収入であるから、これを一時所得に係る総収入金額に算入することは何ら不合理ではない。

4  したがって、本件移転雑費は、一時所得に係る総収入金額に算入すべきである。そして、本件については、一時所得に係る必要経費の支出をうかがわせる事情はないから、昭和五九年分の原告の一時所得金額は、被告主張のとおり九二五万二七〇〇円であると認められる。

三  昭和五九年分の原告の総所得金額について

以上認定説示したように、本件立退料は、分離課税にかかる長期譲渡所得に係る必要経費に算入すべきであって、これを不動産所得に係る必要経費に算入すべきではなく、また、本件移転雑費は、これを租税特別措置法三三条一項に基づく課税の特例の対象となる補償金とは認めがたく、一時所得に係る総収入金額に算入すべきであるから、原告の昭和五九年分の総所得金額は、被告主張のとおり二二五六万〇〇三一円であって、右総所得金額の範囲内でされた本件更正及び過少申告加算税の賦課決定には、課税標準の認定を誤った違法はない。

四  一時所得金額に係る更正の理由附記の欠缺について

原告は、昭和五九年分の確定申告書を青色の申告書により提出することの承認を受け、青色申告書を提出して本件確定申告をしたにもかかわらず、被告は本件更正に係る通知書に、一時所得に係る更正の理由を附記しなかったことは前記のとおり当事者間に争いがない。

しかし、青色申告に対する更正であっても、青色申告承認があった所得以外の所得について更正をする場合には、白色申告に対する更正と同様に扱えば足り、理由附記を要しないものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和四二年九月一二日判決、裁判集八八号三八七頁参照。)。したがって、被告が、本件更正のうち、青色申告承認を受けた所得以外の所得である一時所得金額を更正する部分につき、その理由を附記しなかったことは、違法ではない。

五  結論

以上のとおり、本件更正及び過少申告加算税の賦課決定はいずれも適法であるから、原告の本訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松尾政行 裁判官 綿引万里子 和久田斉)

〈以下省略〉

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